地層の時代を決める化石、コノドント
地層の時代を決める化石、コノドント
安定同位体比でつながる世界の層序
コノドントは,カンブリア紀から三畳紀にかけて海洋に生息していた絶滅生物です.動物してのコノドントは,体長数cmから数十cmほどのウナギのような形をしたヤツメウナギに近縁な生物であったと考えられ,化石として摂食器官にあった硬組織の一部(エレメント)が浅海ー深海の堆積岩から広く発見されています.この,エレメントは〜1mmくらいの大きさで観察には顕微鏡が必要です.
コノドント化石は地質時代を定義する最も精度のよい示準化石として広く利用されています.私たちはこのコノドントの化石を主に深海相の堆積岩から見つけ出すことにより,地球史の解明の重要な鍵を握る地質層序を確立することに取り組んでいます.
詳しくは科博叢書13巻「微化石」を参照下さい.
図:コノドント動物の想像図.体前部にリン酸塩の器官をもっていた.
地層から読み取る2億5千万年前の海洋
私たちの世界には、元素の組み合わせで構成されています。その元素のなかでも原子番号は同じでも質量の違うものが存在します。そのような元素を同位体と呼びます。そのなかで時間と共に放射性崩壊をするものを放射性同位体というのに対して、一定の割合で異なる質量のものが存在するものを安定同位体と言います。地質時代をさかのぼると、地球上のさまざまな要因で経時的にその割合は変化しています。この同位体比の変動曲線を比べることで、化石年代よりもさらに細かな精度で、世界中の層序の時間軸を対比することができます。図はその一例で、日本と南中国、そしてイタリアでみつかったペルム紀三畳紀の境界層を炭素同位体比と硫黄同位体比を用いて高精度に対比しています。このような研究成果により、世界各地で起きた地質時代の環境変化の同時性や前後関係を議論することができるのです(詳しくは Takahashi et al., 2010, 2013)。
地球化学ーコノドントの泳いだ大昔の海を知るー
コノドントについていた2つの大きな目、この大きな目は最後にどんな夢をみて、地層の中に取り込まれていったのでしょうか?それを解き明かすひとつの手段は、地層を化学的な手法を用いて分析することです。この図は、コノドント化石で年代を明らかにした地層セクションを化学分析し、三畳紀の前期の終わり頃の海に酸素の乏しい海水状態が出現したことを表した研究例です。このデータをみると、いまから約2.45億年前の黒色のチャートからは硫黄を含んだ有機物質が増え,藍藻類の膜脂質に含まれる化学物質(いうなれば分子の化石)と動物プランクトン放散虫の化石種の数が減少しています。コノドントはこのような変動する海洋環境中を泳いでいたことがうかがい知れます。(詳しくはTakahashi et al., 2009b)
地球生命の歴史には,短期間で大量の生物種が後世に子孫を残さずに消滅してしまう現象“大量絶滅”が起きたことが知られています。なかでも、約2億5千万年前の古生代ペルム紀と中生代三畳紀の境界(図1中のPとTrの境)で起きた大量絶滅事変は、“ペルム紀末の大量絶滅”と呼ばれ、生物種の9割が絶滅したともいわれている生命の歴史の中で最大級の事件です。この事件がどのようにして起きたのかについては議論が多く、世界中の研究者が注目しています。
この大量絶滅の時期に何が起きたかを知るためには,当時の環境記録を残したペルム紀-三畳紀の地層を研究する必要があります。私たちの研究グループは、岩手県北部に位置する、ひと続きの連続地層から、ペルム紀と三畳紀の海生生物の化石を発見し、この地層がペルム紀と三畳紀の時代をまたいだ地層であることを明らかにしました(図2)。ペルム紀・三畳紀両時代の化石が発見された地層の間にはペルム紀末に起きた大量絶滅時の記録は記録されていることになります。